行政書士 過去問 2019 問題 30

問題 30 A 所有の甲土地と B 所有の乙土地が隣接し、甲土地の上には C 所有の丙建物が存在している。この場合における次のア〜オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

  1. B が、甲土地に乙土地からの排水のための地役権を A・B 間で設定し登記していた場合において、C が A に無断で甲土地に丙建物を築造してその建物の一部が乙土地からの排水の円滑な流れを阻害するときは、B は、C に対して地役権に基づき丙建物全部の収去および甲土地の明渡しを求めることができる。
  2. A・B 間で、乙土地の眺望を確保するため、甲土地にいかなる工作物も築造しないことを内容とする地役権を設定し登記していた場合において、C が賃借権に基づいて甲土地に丙建物を築造したときは、B は地役権に基づき建物の収去を求めることができる。
  3. 甲土地が乙土地を通らなければ公道に至ることができない、いわゆる袋地である場合において、C が、A との地上権設定行為に基づいて甲土地に丙建物を建築し乙土地を通行しようとするときは、C は、甲土地の所有者でないため、B との間で乙土地の通行利用のため賃貸借契約を結ぶ必要がある。
  4. A は、自己の債務の担保として甲土地に抵当権を設定したが、それ以前に賃借権に基づいて甲土地に丙建物を築造していた C から A が当該抵当権の設定後に丙建物を買い受けた場合において、抵当権が実行されたときは、丙建物のために、地上権が甲土地の上に当然に発生する。
  5. C が、地上権設定行為に基づいて甲土地上に丙建物を築造していたところ、期間の満了により地上権が消滅した場合において、A が時価で丙建物を買い取る旨を申し出たときは、C は、正当な事由がない限りこれを拒むことができない。

正解 4

  1. ❌ B が、甲土地に乙土地からの排水のための地役権を A・B 間で設定し登記していた場合において、C が A に無断で甲土地に丙建物を築造してその建物の一部が乙土地からの排水の円滑な流れを阻害するときは、B は、C に対して地役権に基づき丙建物全部の収去および甲土地の明渡しを求めることができる。👉 解説
  2. ⭕ A・B 間で、乙土地の眺望を確保するため、甲土地にいかなる工作物も築造しないことを内容とする地役権を設定し登記していた場合において、C が賃借権に基づいて甲土地に丙建物を築造したときは、B は地役権に基づき建物の収去を求めることができる。👉 解説
  3. ❌ 甲土地が乙土地を通らなければ公道に至ることができない、いわゆる袋地である場合において、C が、A との地上権設定行為に基づいて甲土地に丙建物を建築し乙土地を通行しようとするときは、C は、甲土地の所有者でないため、B との間で乙土地の通行利用のため賃貸借契約を結ぶ必要がある。👉 解説
  4. ❌ A は、自己の債務の担保として甲土地に抵当権を設定したが、それ以前に賃借権に基づいて甲土地に丙建物を築造していた C から A が当該抵当権の設定後に丙建物を買い受けた場合において、抵当権が実行されたときは、丙建物のために、地上権が甲土地の上に当然に発生する。👉 解説
  5. ⭕ C が、地上権設定行為に基づいて甲土地上に丙建物を築造していたところ、期間の満了により地上権が消滅した場合において、A が時価で丙建物を買い取る旨を申し出たときは、C は、正当な事由がない限りこれを拒むことができない。👉 解説

解説

ア: ❌ B が、甲土地に乙土地からの排水のための地役権を A・B 間で設定し登記していた場合において、C が A に無断で甲土地に丙建物を築造してその建物の一部が乙土地からの排水の円滑な流れを阻害するときは、B は、C に対して地役権に基づき丙建物全部の収去および甲土地の明渡しを求めることができる。

妥当でない。280 条(地役権の内容)に「地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第 3 章第 1 節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。」と記されている。
このケースの場合 B が行使できるのは、

  1. 198 条(占有保持の訴え)「占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。」に基づく妨害排除請求権と、
  2. 199 条(占有保全の訴え)「占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。」に基づく妨害予防請求権であり、
    占有を奪われているわけではないので、
  3. 200 条(占有回収の訴え)「占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。」に基づく返還請求権は行使できないので、

丙建物全部の収去および甲土地の明渡しを求めることはできない。

イ: ⭕ A・B 間で、乙土地の眺望を確保するため、甲土地にいかなる工作物も築造しないことを内容とする地役権を設定し登記していた場合において、C が賃借権に基づいて甲土地に丙建物を築造したときは、B は地役権に基づき建物の収去を求めることができる。

妥当である。280 条(地役権の内容)前半に「地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。」と記されている。
このケースの場合 B は、198 条(占有保持の訴え)「占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。」に基づく妨害排除請求権と、 199 条(占有保全の訴え)「占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。」に基づく妨害予防請求権を行使して建物の収去を求めることができる。

ウ: ❌ 甲土地が乙土地を通らなければ公道に至ることができない、いわゆる袋地である場合において、C が、A との地上権設定行為に基づいて甲土地に丙建物を建築し乙土地を通行しようとするときは、C は、甲土地の所有者でないため、B との間で乙土地の通行利用のため賃貸借契約を結ぶ必要がある。

妥当でない。210 条(公道に至るための他の土地の通行権)に「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。」と記されている。C は甲土地の所有者ではないが 267 条(相隣関係の規定の準用)前半に「前章第 1 節第 2 款(相隣関係)の規定は、地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。」と記されているので、C は地上権を持っているので B と賃貸借契約を結ぶ必要はない

エ: ❌ A は、自己の債務の担保として甲土地に抵当権を設定したが、それ以前に賃借権に基づいて甲土地に丙建物を築造していた C から A が当該抵当権の設定後に丙建物を買い受けた場合において、抵当権が実行されたときは、丙建物のために、地上権が甲土地の上に当然に発生する。

妥当でない。388 条(法定地上権)の前半に「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。」と記されているので、甲土地に抵当権が設定されたとき、丙建物は A の所有ではなかったので、抵当権が実行されても、丙建物のために、地上権が甲土地の上に当然に発生することはない

オ: ⭕ C が、地上権設定行為に基づいて甲土地上に丙建物を築造していたところ、期間の満了により地上権が消滅した場合において、A が時価で丙建物を買い取る旨を申し出たときは、C は、正当な事由がない限りこれを拒むことができない。

妥当である。269 条(工作物等の収去等)に「地上権者は、その権利が消滅した時に、土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができない。」と記されている。

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