行政書士 過去問 2018 問題 30

問題 30 抵当権の効力に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。
  2. 借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。
  3. 買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。
  4. 抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対しても物上代位権を行使することができる。
  5. 抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。

正解 3

  1. ❌ 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。👉 解説
  2. ❌ 借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。👉 解説
  3. ⭕ 買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。👉 解説
  4. ❌ 抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対しても物上代位権を行使することができる。👉 解説
  5. ❌ 抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。👉 解説

解説

1: ❌ 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。

妥当でない。判例によれば、「宅地に対する抵当権の効力は、特段の事情のないかぎり、抵当権設定当時右宅地の従物であつた石燈籠および庭石にも及び、抵当権の設定登記による対抗力は、右従物についても生ずる。」とされているため、従物に対抗要件を具備しなくても第三者に対抗できる
また、抵当権の効力については、370 条(抵当権の効力の及ぶ範囲)本文に、「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。」と記されている。
そして、従物については、87 条(主物及び従物)1 項に、「物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。 同じく 2 項に、「従物は、主物の処分に従う。」と記されている。

2: ❌ 借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。

妥当でない。建物の抵当権の効力は借地権に及ぶかについて、判例によれば、「土地賃借人が当該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、右建物の競落人と賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である。」(最判昭和 40 年 5 月 4 日)とされているため、建物の抵当権の効力は借地権にも及ぶ
また、抵当権の効力については、370 条(抵当権の効力の及ぶ範囲)本文に、「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。」と記されている。
そして、従物について、87 条(主物及び従物)2 項に、「従物は、主物の処分に従う。」と記されている。

3: ⭕ 買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。

妥当である。物上代位については、304 条(物上代位)1 項本文に「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。」と記されておりまた、372 条(留置権等の規定の準用)に、「第 296 条、第 304 条及び第 351 条の規定は、抵当権について準用する。」と記されているので、基本的に物上代位権は抵当権にも行使することができることになる。
判例も、「買戻し特約付き売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻し権の行使により買主が取得した買戻し債権を差し押さえることができる」(最判平成 11 年 11 月 30 日)としている。

4: ❌ 抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対しても物上代位権を行使することができる。

妥当でない。判例によれば、「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。」またその理由は、「民法 372 条によって抵当権に準用される同法 304 条 1 項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人(転貸人)は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。」(最判平成 12 年 4 月 14 日)としている。
304 条(物上代位)1 項本文には、「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。」と、372 条(留置権等の規定の準用)には、「第 296 条、第 304 条及び第 351 条の規定は、抵当権について準用する。」と記されている.

5: ❌ 抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。

妥当でない。(抵当権の被担保債権の範囲)375 条1 項本文に「抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の 2 年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。」と記されており、同じく 2 項本文に、「前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の 2 年分についても適用する。」と記されているため、最後の 2 年分についてのみ弁済権を行使することができる。なお、この規定は他の利害関係人を保護するために規定されている。

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