行政書士 過去問 2018 問題 29

問題 29 A が登記簿上の所有名義人である甲土地を B が買い受ける旨の契約(以下「本件 売買契約」という。)を A・B 間で締結した場合に関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

  1. 甲土地は実際には C の所有に属していたが、C が A に無断で甲土地の所有名義人を A としていた場合において、A がその事情を知らない B との間で本件売買契約を締結したときであっても、B は C に対して甲土地の引渡しを求めることができない。
  2. 甲土地は A の所有に属していたところ、A の父である D が、A に無断で A の代理人と称して本件売買契約を締結し、その後 D が死亡して A が D を単独で相続したときは、A は、D の法律行為の追認を拒絶することができ、また、損害賠償の責任を免れる。
  3. 甲土地が相続により A および E の共有に属していたところ、A が E に無断で A の単独所有名義の登記をして B との間で本件売買契約を締結し、B が所有権移転登記をした場合において、B がその事情を知らず、かつ、過失がないときは、B は甲土地の全部について所有権を取得する。
  4. 甲土地は A の所有に属していたところ、本件売買契約が締結され、B 名義での所有権移転の仮登記がされた場合において、A が甲土地をその事情を知らない F に売却し所有権移転登記をしたときは、B は本登記をしない限り F に対して所有権の取得を対抗することができない。
  5. 甲土地は A の所有に属していたところ、G が A に無断で甲土地上に建物を築造し、その建物の所有権保存登記をした場合において、本件売買契約により甲土地の所有者となった B は、G が当該建物の所有権を他に譲渡していたとしても、登記名義が G にある限り、G に対して当該建物の収去および土地の明渡しを求めることができる。
  1. ア・ウ
  2. ア・オ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ
  5. エ・オ

正解 5

  1. ❌ 甲土地は実際には C の所有に属していたが、C が A に無断で甲土地の所有名義人を A としていた場合において、A がその事情を知らない B との間で本件売買契約を締結したときであっても、B は C に対して甲土地の引渡しを求めることができない。👉 解説
  2. ❌ 甲土地は A の所有に属していたところ、A の父である D が、A に無断で A の代理人と称して本件売買契約を締結し、その後 D が死亡して A が D を単独で相続したときは、A は、D の法律行為の追認を拒絶することができ、また、損害賠償の責任を免れる。👉 解説
  3. ❌ 甲土地が相続により A および E の共有に属していたところ、A が E に無断で A の単独所有名義の登記をして B との間で本件売買契約を締結し、B が所有権移転登記をした場合において、B がその事情を知らず、かつ、過失がないときは、B は甲土地の全部について所有権を取得する。👉 解説
  4. ⭕ 甲土地は A の所有に属していたところ、本件売買契約が締結され、B 名義での所有権移転の仮登記がされた場合において、A が甲土地をその事情を知らない F に売却し所有権移転登記をしたときは、B は本登記をしない限り F に対して所有権の取得を対抗することができない。👉 解説
  5. ⭕ 甲土地は A の所有に属していたところ、G が A に無断で甲土地上に建物を築造し、その建物の所有権保存登記をした場合において、本件売買契約により甲土地の所有者となった B は、G が当該建物の所有権を他に譲渡していたとしても、登記名義が G にある限り、G に対して当該建物の収去および土地の明渡しを求めることができる。👉 解説

解説

ア: ❌ 甲土地は実際には C の所有に属していたが、C が A に無断で甲土地の所有名義人を A としていた場合において、A がその事情を知らない B との間で本件売買契約を締結したときであっても、B は C に対して甲土地の引渡しを求めることができない。

妥当でない。このケースの場合、権利外観法理を用いて 94 条 2 項の類推適用をする。
まず、94 条 2 項には「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と記されており、1 項には「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」と記されている。2 項を類推適用してこのケースにあてはめてみると「C は、B に対抗することができない」ということになる。
そして、なぜそうなのかという理由について、権利外観法理を用いる。権利外観法理(表見法理)とは、①真実の権利関係と異なる外観が存在する場合において、②真実の権利者に虚偽の外観作出についての帰責性があるときには、③真実の権利者の権利を犠牲にしてその外観を信頼した第三者を保護しようという考え方である。
そこで、この権利外観法理をこのケースに当てはめてみると、「①甲土地は実際には C の所有であるが A の所有名義となっており、②これは C が A に無断でしていたことなので、③ C の権利を犠牲にして A の所有であることを信頼した B を保護する。」となり、B は C に対して甲土地の引渡しを求めることができる

イ: ❌ 甲土地は A の所有に属していたところ、A の父である D が、A に無断で A の代理人と称して本件売買契約を締結し、その後 D が死亡して A が D を単独で相続したときは、A は、D の法律行為の追認を拒絶することができ、また、損害賠償の責任を免れる。

妥当でない。A は、D の法律行為の追認を拒絶することはできるが損害賠償の責任を免れることはできない。
まず、A が甲土地の売買契約の追認を拒絶できるかついては、113 条(無権代理)1 項に、「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」と記されており、また判例でも、「相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても何ら信義則に反しないから、被相続人の無権代理行為は本人の相続により当然有効となるものではない」(最判昭和 37 年 4 月 20 日)とされているので、A は追認を拒絶することができる
次いで、A が損害賠償の責任を免れるかについては、117 条(無権代理人の責任)1 項に、「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」と記されており、また判例でも、「民法 117 条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであって、このことは本人が無権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の右債務を承継するのであり、本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといって右債務を免れることはできないと解すべきである」(最判昭和 48 年 7 月 3 日)としているので、A は追認を拒絶することができるからといって損害賠償の責任を免れることまではできない

ウ: ❌ 甲土地が相続により A および E の共有に属していたところ、A が E に無断で A の単独所有名義の登記をして B との間で本件売買契約を締結し、B が所有権移転登記をした場合において、B がその事情を知らず、かつ、過失がないときは、B は甲土地の全部について所有権を取得する。

妥当でない。「共同相続人が共同相続した不動産につき共同相続人の一方が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者がその者から移転登記をうけた場合、他の共同相続人は第三者に対し自己の持分を登記なくして対抗できる」(最判昭和 38 年 2 月 22 日)とする判例により、E は B に対して自己の持分を登記なくして対抗できるので、B は甲土地の全部について所有権を取得できるわけではない

エ: ⭕ 甲土地は A の所有に属していたところ、本件売買契約が締結され、B 名義での所有権移転の仮登記がされた場合において、A が甲土地をその事情を知らない F に売却し所有権移転登記をしたときは、B は本登記をしない限り F に対して所有権の取得を対抗することができない。

妥当である。「仮登記権利者は、本登記をなすに必要な要件を具備した場合でも、本登記を経由しない限り、登記の欠缺を主張し得る第三者に対しその明渡しを求めることはできない」(最判昭和 38 年 10 月 8 日)とする判例による。

オ: ⭕ 甲土地は A の所有に属していたところ、G が A に無断で甲土地上に建物を築造し、その建物の所有権保存登記をした場合において、本件売買契約により甲土地の所有者となった B は、G が当該建物の所有権を他に譲渡していたとしても、登記名義が G にある限り、G に対して当該建物の収去および土地の明渡しを求めることができる。

妥当である。次の判例による。

土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。したがって、未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、 右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであり、また、建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである。もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である。」(最判平成 6 年 2 月 8 日)

この判例をこのケースに当てはめながら要約してみると次のようになる。

建物収去・土地明渡しの請求相手は、現実に建物を所有し土地を占拠している相手が原則である。そして、G が建物の所有権を未登記のまま他に譲渡したのであれば、これにより確定的に所有権を失うので、

  1. 後で G の意思に基づかずに G 名義に所有権取得の登記がされても、G は建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるし、
  2. G が実際には建物を所有せず単に自己名義の所有権取得の登記をしているにすぎない場合も、 建物収去・土地明渡しの義務を負わない。

しかし、G 名義の所有権取得の登記をしている上で他に譲渡したのであれば、登記名義が G にある限り建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。」

ということになり、B は登記名義が G にある限り、G に対して当該建物の収去および土地の明渡しを求めることができる。

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